トランプ大統領就任後に米国のダウ平均は当面の大目標だった20,000ドルをいとも簡単に突破し史上最高値を更新しているというのに、相関係数が0.8~0.9と非常に高いといわれている日経平均はなかなか2万円の大台に乗らないでいるばかりか、その差は開いていく一方だ。 
 米国には株式投資をして投資企業とともに億万長者に上り詰めたというサクセスストーリーをよく聞くが、日本においてはそうした話をほとんど耳にしたことがない。

日本においてはバブル的な急激な値上がりをすることでしか、多くの株主はキャピタルゲインを得ることができないのだ。 
 
 なぜなら、日本の上場企業の殆どが特定株主という一部の大株主に守られ、経営陣はその地位を担保されているので、特定株主だけを意識していればよかった。だから株主に向き合う必要性がなかった。株主の方も長らくの悪しき慣習で少数意見はすべて否決されるとわかっているので、「一切物を言わない株主」ばかりとなっているのだ。

日本ではいつのまにか「企業は経営者のモノ」であるという経営者至上主義が常識となり、はびこってしまった。
 
 一方、アベノミクスによって多くの企業がその恩恵を大いに受け、企業の内部留保が377兆円と過去最高を記録している。本来であれば、こうした企業の剰余金が設備投資や人件費、株主への配当などで循環することによって景気を押し上げれば、アベノミクスは機能するのだが、殆どの企業は莫大に膨れあがった内部留保を使おうとはしない。

そうした企業の余剰金は殆どが預金にまわるから、現在のような超低金利時代で家計の預金額は減っているにも拘わらず預金残高だけが677兆円と過去最高額を記録し、毎年のように更新しているのだ。
いかにお金が循環していないという事がわかるであろう。


 海外の投資家からも、日本の上場企業はコーポレートガバナンスの規律付けにおいて、遅れていると言われてきた。実はそこにこそ、株が騰がらない根本的な原因がある。

本来、余剰資金が潤沢で業績が好調であれば、株主価値や企業価値は自ずと騰がっていくはずである。日本企業の場合は潜在的には株主価値や企業価値が高いものの、企業経営者の怠慢が原因で企業価値や株主価値が放置され続けているのである。

 そんな中、アベノミクス三本目の矢の成長戦略の一環として登場したのがコーポレートガバナンス・コードであるが、その特徴は、「コンプライ・オア・エクスプレイン」(原則を実施するか、実施しない場合には、その理由を説明するか)という手法を採用していることだ。原則として上場企業はコーポレートガバナンス・コードに沿った経営をしていかなければならない。
コーポレートガバナンス・コードの基本原則は次の5つがある。

基本原則1「株主の権利・平等性の確保」
基本原則2「株主以外のステークホルダーとの適切な協働」
基本原則3「適切な情報開示と透明性の確保」
基本原則4「取締役会等の責務」
基本原則5「株主との対話」

 これまでの古い体質に毒された企業経営者からすれば、寝耳に水でただ単に面倒な新しい制約が増えただけと感じるかもしれない。しかし、そう思う事自体がそもそも間違いで、株式会社は誰のものかという原点に立ち返れば、世界中共通して言えるのは「株主のものである」ということが大前提なのだ。
 コーポレートガバナンス・コードの主眼は、企業に攻めの経営を促して稼ぐ力を向上させることにある。この機会を日本の上場企業が自社の経営理念や株主との関係を外部の視点から見直し、自社に合った考え方を確立するチャンスだと捉えることができれば、日本企業の稼ぐ力が大いに高まることになるのではないかということなのだが、実情はかなりのギャップがある。
 そもそも株主の権利と平等性の確保や適切な情報開示と透明性の確保、株主との対話などという事に重きを置いている企業体質であるのなら、取締役をすべて内部から起用するというのは理にかなっていない。欧米などではコーポレートガバナンスの意識が強いので、社外取締役は最低でも全体の1/3~2/3を占めるようになっている。それだけ外部や株主の立場に立った客観的な意見に耳を傾けようという姿勢の表れだと思うのだが、日本では外部取締役といっても関係性の深い幹事証券や取引銀行などから選定するケースが多く、いってみれば経営者にとって都合のよいお飾り的な社外取締役が多いのが現状だ。

 さらに、金融庁は、このほど機関投資家の行動原則を定めた「スチュワードシップ・コード(受託者責任原則)」の改定案を固めた。生命保険会社や信託銀行などの機関投資家に対し、株主総会での個別の議案ごとの賛否を開示するよう求める内容であり、これまでのような運用先との馴合いを断ち、株主としての責任を徹底させることが目的だ。投資先企業の株主総会でどのように議決権を行使したか原則、個別に開示したり、第三者が意思決定の妥当性を検証する仕組みをつくったりすることを求めるのが柱で大口株主の投資行動の透明性を高め、経営へのチェック機能を強めるとしている。

 コーポレートガバナンス・コードにせよスチワードシップコードにせよ、原案も改定案も凄まじいスピードで取りまとめられたことから安倍政権の本気さが表れているといえよう。

企業側も自社のガバナンス体制とのすり合わせ作業を急ピッチで行わなければならないのだ。

 

 しかし、政府の姿勢を含む一連の流れに対して、上場企業側の経営陣の対応は遅々として進まない。そこで、このような企業の姿勢に問題提起をしているのが外資系投資ファンドASMだ。
ASM
はアジアの政府系ファンドも投資している程の実力のあるヘッジファンドだが、世界中でエンゲージメント投資活動を実践し、見事に企業価値を数倍にするなどの成功を納めてきている。

 そこで、誤解されやすいのがエンゲージメント活動といわゆるアクティビストとの違いなのだが、従来のアクティビストというのは株主としての権利を積極的に行使して会社に影響力を及ぼすという事である。いうなれば手段は択ばず強引に力技でも会社を変えていこうとする投資家の総称なのだが、エンゲージメント活動というのは企業に対して様々なアドバイスや地道な対話の積み重ねによって潜在的価値を上げることによって企業価値の向上、牽いては株主価値の向上を図ることを目的としている活動なのである。

 

そのASMがこの度、日本で初めて真のエンゲージメント投資活動を実践し始めたのだが、活動の第一弾として選定した企業がTTK1935だ。なぜならTTKという会社は財務面、事業面、資本政策などを見ても潜在的企業価値は非常に高いものの、明らかなミスプライシング状態で放置されているからである。

詳細は次回以降のブログでご紹介していきたいと思う。


*注意*

 当ブログは事実に基づいたpublic informationあり、特定株式の値上がりや買いを促す目的ではありません。投資に当たっては、ご自身の評価と判断に基づいてご決定ください。